YouTubeのアカウントをふたつもっている。
そのうちのひとつ、聡耳屋の動画をアップするのに使っているアカウントは、なぜなのか、開くと常にアリアナ・グランデの動画ばかりがタイムラインに上がってくる。
名前はもちろん知っているが、どんな歌を歌っているか気にしたこともなかったのに。
それで、彼女がミュージカルの映画化『ウィキッド』で、善き魔女グリンダを演じているということを知り、『ウィキッド』って、どんな話だっけ……と思った。
実はわたしは15年ほど前、旅行中の大阪で劇団四季の『ウィキッド』を観たことがある。
『オズの魔法使い』に出てくる嫌われ者の「西の悪い魔女」は学生時代、善き魔女グリンダの親友だった……、その設定だけは覚えている。
しかし、その後の展開がまったく思い出せない。
けれども観劇後の印象は「ふうん、なるほど。メッセージが込められたストーリーなのは、わかった」程度で、「感動した!」とかではなかったことは覚えていた。
たぶん、映画も観ることはないだろう……。
そう思いつつ、何気なくYouTubeのショート動画を開いて、すっかり気が変わってしまった。
実力も人気もある世界的なスターのアリアナが、少女時代に観たミュージカルの憧れの役を勝ち取るため、オーディションの何か月も前から、クラシックの歌唱法を学んで準備していたこと。
それでも自分がグリンダに相応しくないのなら役がもらえなくてもいい、ほんとうに相応しいひとに演じてほしい、最高の映画になってほしいからと、ライバルの候補者たちに自分の知るスキルを惜しげもなくシェアしていたこと。
数回のオーディションの末グリンダ役に決まったとき、泣き崩れて「この役をぜったいに大切にします」と約束したこと。(動画が残っている)
自分がスターだからと特別扱いはやめてほしい、エルファバ役のシンシアとまったく同じ金額のギャラと条件にしてほしいと申し出て、実際に契約書類が渡されたとき、シンシアに電話してすべての項目が同じであることを確認したこと。
映画撮影の1年半のあいだ、ほかの仕事をせずグリンダだけに打ち込んだため、監督が「アリアナはこの映画のために、いったい何億ぶんの仕事を失ったのだろう」と心配したこと。
エンドロールに流れる自分の名前を、『ウィキッド』を初めて観た10歳のときの名前でクレジットしたこと……。
……そうしたエピソードをいくつか見るうちに、わたしは、「このような愛と情熱が注ぎ込まれた背景を知ってしまったら、観ないわけにはいかない」と思うようになった。
でも、いろいろやらなければならないことは山積みだし、もうそろそろ最寄りの映画館での公開も終わりに近づいているようであったので、さて、劇場公開しているうちに行けるかしら、と思っていた。
最近、これまで以上に、ガイダンスのみを頼りにして生きたい、と願うようになったので、映画館で観るかどうかは、聖霊にゆだねることにした。
つづく。


